お便りシリーズNo.83

【令和8年・2026年度
共通テスト試験古典(古文漢文)】




  


第4問(古文)
次の文章は、「うつほ物語」の一節である。仲忠(なかただ)〔本文では「中納言」「君」〕は、祖父が異国で天人たちより伝授された琴(きん)とその奏法を、母〔本文では「尚特のおとど」〕とともに大切に守り伝えてきた「琴の一族」である。本文は、仲忠の妻〔本文では「宮」〕が娘〔本文では「いぬ」「児」〕を出産した直後の場面である。

現代語訳

 中納言(=仲忠)は、「あの “ 龍角(りゅうかく) " 《補註…祖父から伝わる秘伝の琴》をいただいて、(生まれたばかりの娘である)いぬのお守りにしましょう」(と言う)。
尚侍(かん)のおとど(=仲忠の母)は、ちょっと笑って、 「(生まれたばかりで)はやくも、また(そんなことを言って)、このような折に(=出産の折に)言うようなことでしょうか」とおっしゃると、
(仲忠は)「一般的にはどうでしょうか(分かりませんが、しかし)、この琴の一族のある所、琴の音色がする所には、天人が空を翔(かけ)て飛んできてお聞きになるそうなので、(いぬの誕生にあたり、天人の加護を)添えようと思って

聞ゆるなり

(と答えた)

 尚侍(かん)のおとどは、典侍(ないし)《補註…ここでは女官の一人》を使って、大将のおとど《補註…仲忠の父》に、「あの私の琴が、ここで必要とされるようだ。

取らせむ

と申し上げなさったので、大将のおとど(=仲忠の父)は急いで三条殿《補註…尚侍のおとどと大将のおとど夫婦の邸宅》へお行きになって、(その琴を)取り寄せていらっしゃった。

三の宮《補註…仲忠の妻の兄弟》が(琴を)いただいて、中納言(仲忠)にさしやりなさったところ、(琴は)唐物の縫い物袋に入れてある。(仲忠は)児(ちご=いぬ)を懐(ふところ)に抱いたまま、琴を取り出しなさって、「長年、この手《補註…秘伝の琴の奏法》を、

いかにしはべらむ

と、思い嘆いておりましたのを。後のことは(どうなるか)分からないけれども」などと言って、「ほうしょう」《補註…琴の曲名》という曲を華やかに弾く。(その)音色は、とても誇らしけで賑やかであるものの、また(一方では)、しみじみ趣深く、ぞっとするような(素晴らしさ)である。様々な物の音(ね)も多く、琴の調べと合奏している様に(聞こえる)音色は、面と向かって聴くよりも、遠くから聴く方がより響いていた。

 中納言(=仲忠)が、このような曲《補註…子の誕生に際して弾くのにふさわしい曲》を、音高く弾くと、風がとても荒々しい音を立てて吹く。空の様子が騒がしげなので、「いつものように、この琴は手を触れにくいことよ。わずらわしい。《補註…以前、琴を弾くと天変地異などの不思議な現象が起きたことを踏まえた表現》」と思って、弾くのをやめて、尚侍(かん)のおとど(=仲忠の母)に申し上げなさる。

「今一曲(私が)お弾き申し上げようと思うけれど、

(ア)騒がしければ、えなむ。

これに、(あなた様の)曲・調べを一曲お弾きになって、鬼を退散させてください」と申し上げなさると、(母は)

(イ)はしたなげにぞあめる。

(とおっしゃる)。
 君《=仲忠/リード文に説明》は、「私仲忠のためには、これにまさる(母君の演奏にふさわしい)折はあるはずもありません」と申し上げなさると、尚侍(かん)のおとど(=仲忠の母)は、御床(おんゆか)《補註…御帳台(みちょうだい=貴人の寝台)/尚侍のおとどは宮の出産を手伝って御帳台の内にいた》よりお下りなさって、琴を手に取りなさって、曲を一曲弾きなさる。その音色は、まったく言い尽くせない(ほど素晴らしい)。

 中納言(=仲忠)の演奏は、趣深く凝(こご)しきまで《補註…険しいほどで》、雲や風の様子が格別になる(ほど)なのを、この(母の)演奏は、病ある者や(何かを)思い恐れて、うらぶれた人も、この演奏を聞けば皆(苦しみを)忘れて、面白く、頼もしく感じられて、寿命も延びるような心地がする。
こういうわけで、宮《=仲忠の妻/リード文に説明》は(尚侍のおとど=仲忠の母の)琴の音色をお聞きになると、(普段)いらっしゃる時よりも若やいで、(出産という大事な)わざを成したともお思いにならず、苦しいこともなくて、起き上がって座っていらっしゃる。

仲忠が、「(起き上がるのは身体に)悪いようだ。やはり、

臥(ふ)せさせたまひて聞こしめせ」

と申し上げなさると、宮(=仲忠の妻)は、「ただ今は苦しいこともありません。この(尚侍のおとど=仲忠の母の)琴の演奏を聴いていると、苦しかったことも、皆なくなってしまった」と言って座っていらっしゃる。

女御の君《補註…宮(仲忠の妻)の母》と尚侍のおとど(=仲忠の母)が共に、

(ウ)風邪ひきたまひてむ

と言って、騒いで(宮=仲忠の妻を)寝かせ申し上げなさった。琴はすっかり弾き終えなさったので、袋に入れて、宮(=仲忠の妻)の枕元に、御佩刀(みはかし)《補註…守り刀》を添えて置いた。


人物相関図




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第5問〔漢文〕

次の文章は江戸時代後期の漢学者である長野豊山〔ながやまほうざん〕(1783-1837)が表したものである。

客(きゃく)余(よ)に問ひて曰(いは)く、「子(し)は詩を学ぶに、唐(とう)か、

宋(そう)か」と。 曰(いは)く、

   ズシモ ナラ ズシモ ナラ、 

  ズシモ ンバアラ   ナラ

[我は必ずしも唐(とう)ならず、必ずしも宋(そう)ならず、又(ま)た必ずしも

唐宋(とうそう)ならずんばあらず。]


見るべし、不必の二字、是(こ)れ我(わ)が

(ア) 宗 旨 (しゅうし)

なり」と。

東坡(とうば)《補註…北宋の文人蘇軾(そしょく)の号

云(い)ふ、「詩を作るに此(こ)の詩を必(ひつ)とするは《補註…このような

詩でなければならないとするのは


定(さだ)めて詩人に非(あら)ざるを知る」と。

(イ) 知 言

と謂(い)ふべし。

窃(ひそ)かに世の詩流を視(み)るに、詩の巧拙(こうせつ)

《漢単C13…たくみであるか下手であるか》を問はず、同じきに

党(とう)し異なるを伐(う)ちて《補註…同じ考えの者をひいきして、異なる

考えの者を攻撃して
》、忿争(ふんそう)すること狂うがごとし。

 是  雖  狭  見  使  然、 

  (ま) (はなは) (がい)ナラ

[亦(ま)た已(はなは)だ騃(がい)ならずや]

補註…騃=愚かなさま

人の口(くち)を極めて白石(はくせき)・南郭(なんくわく)《補註…新井白石/

服部南郭=共に江戸の漢学者・詩人
》を罵(のの)しりて、以(もっ)て偽詩(ぎし)

と為(な)す有り。

余(よ)

 (こ) (み)ンコトヲ (そ)  

 意を立つる《補註…主題を立てる》こと陳腐にして、但(た)だ多く

生字(せいじ)《補註…見慣れない字や言葉》を用ゐて、以(もっ)て其(そ)の

拙《漢単C13…下手であること》を掩(おほ)ふのみ。

 余 因(よ)リテ (い)ヒテ ハク

「白石(はくせき)・南郭(なんくわく)は誠に偽詩(ぎし)を作り、吾子(ごし)

補註…あなた》は真詩を作る。然(しか)れども、吾子の詩は、譬(たと)へば

真瓦(しんが)《補註…素焼きの器物》なり。

二子(にし)の詩は、譬(たと)へば偽玉(ぎぎょく)なり。真瓦の価(あたい)、

迥(はる)かに偽玉の下に在(あ)り」と。

〔『松蔭快談』による〕




[この記事つづく]



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