漢文白文問題における


運用中止法の解説


〔漢文公式11のABC〕

  


まず、古文の連用中止法の例から見ていきます。

【例】 たとひ舞ひをご覧(らん)じ、歌を聞こしめさずとも、〔平家物語〕
             
↑  
           
連用中止

 現代語でも、「昨日予備校に行き、勉強した」の「行き」みたいに、文中の動詞を連用形で止めてしまう場合ってありますよね。そんなふうに、文中の活用語を連用形で止める形を「
連用中止法」と言います。

 ほとんどの場合は気にせずに意訳できるんですが、問題なのは、連用中止の下の述部の部分に打消しの助動詞や使役の助動詞や受身の助動詞がくる場合は、連用中止を含む一文は下の述部にかかってきますから、
連用中止の部分も下の打消しや使役によって、意味上規定されるという点です。

 【例】の場合だと、「ご覧じ」(複合サ変「ご覧ず」の連用形)が、下の打消しの助動詞「ず」にかかっていくので、訳せば「たとえ舞いをご覧にならなくても、また歌をお聞きにならなくても」と、
両方を打ち消すことになります。

 こんなふうに、二連文を下の打消しで両方受ける日本語の連用中止法が、漢文の場合は、否定詞が上の方にくるので、ちょうど日本語の連用中止法が逆さまになったような感じになります。
 つまり、こんな感じ。

《 否定形の連用中止法 》




これを
否定形の連用中止法と言います。

 否定詞の下に二つの文章がきて、V1、V2となった場合は、読み方は二通り考えられます。
最初のV1を否定詞にあげて否定形で完結させたうえで、次の文章をノーマルな肯定文としてよむ読み方が一つ。

 でも、それでは文脈上意味がとれなくて、「なんか変だなぁ。これ、もしかして両方打ち消される形じゃないだろうか」と疑った場合には、


V1を連用形で止めるか、または「連用形+テ」で読んでおいて、そのまま下に読んでいき、次のV2を否定詞に上げてよめば、全体として「~することもないし、また~することもない」と、両方の動詞が打ち消されることにります。

 漢文公式11否定詞の連用中止の場合を見てみましょう。
                  
かみ
【例】 莫
シ レ 不ルハ 下  親シミ 二 其ノ上 ニ一  死 セ中 其ノ 長ニ 上 。

    (そのかみにしたしみそのちょうにしせざるはなし)


 この【例】の場合、冒頭に「莫シ レ 不ルハ」という二重否定がきてますから、意味は「以下のことを~しないことはない・必ずする」といった強い肯定を表わします。
 この二重否定の「莫シ レ 不ルハ」の下が「其の上(かみ)に親しむ」という本来の一文と、「其の長に死す」という本来の一文の二連文で構成されていますから、この二連文をともに二重否定で読もうとすれば、最初のV1(親しむ)を連用形で止めることになります。「親しむ」は四段ですから「親しまず」となり、活用は「ま/
み/む/む/め/め」で、連用形は「親しみ」となって、これが連用中止となります。

 解釈する際には、古文の連用中止法と同じように、両方の文が二重否定になりますから、訳せば「その上(かみ)に親しまない者はいないし、その長のために死なない者は一人もいない」と、
両掛けで打ち消されることになります。
 

《使役形の連用中止法》

 漢文公式11B使役形の場合の部分を見て下さい。


使役の助字(しム)+人名(物)+述語+補語(目的語)+述語+補語(目的語)
     ⑥     ①    ③    ②     ⑤    ④
         (~ヲシテ)  V1          V2


 使役形の場合も、使役の助字の下に二連文があるときは、読み方は二通りしかありません。(使役形の助字については、漢文公式19A①を見て下さい。)

 
最初のV1を未然形にして使役の助字に上げ、使役形を完結させたうえで、次の一文には使役の意を掛けずに読んでしまう読み方が一つ。

 
でも、文脈上、両方の動詞に使役がかからないとおかしいなぁと考える場合は、
最初のV1を「連用形または連用形+テ」で止めて、次のV2を未然形にして使役の助字にあげれば、「~V1させて、~V2させる」と両方の動詞に使役の意がかかることになります。

 これが 使役形の連用中止法 です。

 




公式に載せている例文はH12センターの本試験に出たものです。

   
 し        ひら
 ● 王 令
ム下人ヲシテ発キ二平 府ヲ一而 視上レ之ヲ。

   (おうひとをしてへいふをひらきこれをみしむ)



 この場合、V1にあたる「発(ひら)く」が四段活用で「発(ひら)き」と連用形になっていますから、ここが連用中止になっています。したがって、訳す場合の意味上の解釈では、連用中止は使役の助字「令(し)む」にかかっていきますから、「王様が平府を発(ひら)かせてこれを見させた」と、両掛けで意味上使役にかかることになります。

 ところで、こうした使役形の連用中止法の間違った選択肢としてよく見る形は「V1しめ(て)~V2(せ)しむるに」など、V1・V2の両方に「しム」の活用をつけてしまう形です。
 
 連用中止法は、読みの上ではV1の部分を連用形で止めるのであって、
V1とV2の両方に「しム」をつけることはありません。

 
意味の上では連用中止の部分を使役に訳すという考え方と、読みの上ではあくまでV1を連用中止として活用語の連用形で止める、という考え方の二つを混同しないようにお願いします。





 最後に、H20に出題された連用中止法の問題をあげておきますので、参考にして下さい。

【例題】
    
かんかん    かたど            ぐぶ 
  
唐ノ 韓 幹ハ 以テ レ 貌 ルヲ レ馬ヲ 召サレ、入リテ供奉タリ。

   明 皇 詔 令 従 陳 公 受 画 法。
                        
ないきょう
   幹 因
リテ 奏スラク、「臣ニ自ラ有リレ師 。 陛 下ノ内 厩 ノ 飛 黄・照 夜・

   五 方 之 乗、皆 臣
ノ師 也ト。」 帝 然リトスレ之ヲ。
             は   こ   

   其
ノ後 幹ノ 画 遂ニ果タシテ踰ユレ公ヲ。 
 

 (注)韓幹―唐代の画家。
    供奉―官名。才芸あるものが皇帝の身辺に仕えた。
    明皇―唐の玄宗皇帝。
    陳公―唐代の画家。
    飛黄・照夜―ともに駿馬の名。
    五方之乗―各地方から集められた馬。

 
問 傍線部「明 皇 詔 令 従 陳 公 受 画 法」の返り点のつけ方と書き下しの組み合わせとして最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

    ① 明 皇 詔 令
三 従 陳 公 受二 画 法一。
       
みことのり
     明皇 詔 して従ひし陳公をして画法を受けしめんとす。
                
    ② 明 皇 詔 令
レ 従二 陳 公 受 画 法一。
        みことのり
     明皇 詔 して陳公の受けし画法に従はしめんとす。
  

    ③ 明 皇 詔 令
下 従二 陳 公一 受中 画 法上。
        みことのり
     明皇 詔 して陳公に従ひて画法を受けしめんとす。
                
    ④ 明 皇 詔 令
二‐ 従 陳 公一 受二 画 法一。 
        みことのり
     明皇 詔 して陳公を令従し画法を受けしめんとす。
                

    ⑤ 明 皇 詔 令 従 陳 公 受
二 画 法一。
         みことのり
     明皇 詔 して令従の陳公をして画法を受けしめんとす。

 この文章の場合、明皇(めいこう)が天子の命令を告げて韓幹(かんかん)を陳公(ちんこう)という画家に従わせて、その陳公の画法を受けさせようとした、の意であることが推察できます。すると、使役の助字の「令」の下は、「陳公に従ふ」
というのが本来の一文であり、また「画法を受く」というのが本来の一文であるということがわかります。

 こういう場合、
連用中止に読むか、読まないかの二通りしか読み方がないわけですけど、選択肢を見ても「陳公に従はしめ」と、V1からすぐに使役の助字に上げてよんでいるものは存在しませんから、やはりこれは連用中止法で読むのだろうとわかります。

 そうなるとV1の「従ふ」を
連用形または連用形+テで止めているものと考えればいいわけですから、着眼点は一ヶ所ということになり、実に簡単に解けてしまいます。答は③です。(V1が「従ひて」と連用中止の形ににっているのは③だけです。)

 ところで、この場合の助字の「令」を「しム」ではなく、「しメ
ントス」と読んでいるのは、確定された事実として完了しているわけではなく、つまり「そのようにさせた」のではなく、「それをまさにしようとさせた」という文意ですから、「しメントス」と読んでいるわけです。

 以下の文脈からも、玄宗皇帝が陳公に師事させようとしたのに対し、韓幹はそれを婉曲に断っているわけですから、「させた」わけではないのです。

 このように、漢文においては、「
まさに~しようとする」という文意を表わすときには、よく「~未然形ントス」の形で表わします。

 というわけで、否定詞や使役の助字を含む白文問題の構造が、二連文またはそれ以上の多連文になっているときには、この以上のような連用中止法の解釈をまず疑ってみて下さい。

 H18センター本試「胡祭酒集」問3、H19センター本試「竹葉亭雑記」問3、H20センター本試「衡櫨精舎蔵稿」問2のBの三年連続センター本試験で白文の連用中止法が出題されましたし、
H23筑波大漢文問二・H24早稲田・法学部問一の八(Ⅰ)にも連用中止法を使って解く白文問題が出題されています。

問一ノ八 傍線部Xの「九陌の塵」は、都の喧騒や都市の生活を象徴する語である。都の生活をテーマに詠じた次の南宗・陸遊の漢詩を読み、あとの問いに答えよ。

世 味 年 来 薄
キコト似タリ レ 紗
ニ

5 誰 令 騎 馬 客 京 華

小 楼 一 夜 聴
キニ春 雨ヲ一

深 巷 明 朝 売ルニ杏 花ヲ一

矮 紙 斜 行 閑カニ作シレ草ヲ

晴 窓 細 乳 戯レニ分スレ茶ヲ

素 衣 莫カレレ起コスコト二
風 塵ノ歎キヲ一

猶 及
ビテ二清 明ニ一可シレ到ルレ家ニ

(注)沙…うすぎぬ
  矮紙…小さな紙きれ
  作草…草書体の字を書く
  細乳…茶をたてる時にできる細かい泡沫のこと
  分茶…茶をたてること
  清明…晩春の節句。郊外の山野に出かけたり、墓参りをする日

〔Ⅰ〕傍線部5「誰 令 騎 馬 客 京 華」の返り点の付け方として、最も適切なものを、次の中から選べ。

ア…誰 令
二 騎 馬 一 客 二 京 華 一

イ…誰 令
二 騎 レ 馬 客 京 華 一

ウ…誰 令
二 騎 馬 客 レ 京 華 一

エ…誰 令
二 騎 馬 客 一 京 華

オ…誰 令
三 騎 レ 馬 客 二 京 華 一

【ヒント】
 
一句目・二句目の文意は「世間の風潮が年来薄い(漢単B4*人情味が薄い)ことはうすぎぬのようなものだ。一体誰が人を馬に乗せて(=騎きす)華やかな都に客(きゃくス)=他所に身を寄せるようにさせるのか」といった文意です。

 答はオですが、どうしてそうなるのか解法のプロセスを示すことができるでしょうか。


《使役暗示動詞を用いた連用中止法》

例 (帝はこうねん浩然という詩人に会えたことを喜び、寝台の下に隠れた浩然に対し)

 詔 浩 然 出 、誦 所 為 詩 。

 冒頭の「詔」は漢単D19「みことのり(ス)…天子の命を告げること」。「誦(しょうス)」は詩歌を声に出して読むの意。下から2文字目の「為」は、ここでは「つくル」(公9G)とよみます。漢文公式19Bにあるように、使役暗示動詞の「詔(みことのり)ス」を冒頭においた場合、「~に詔(みことのり)シテ~Vセシム」のように、下の述部の送りに「シム」を送るのがルールですが、この白文の場合、「出(い)ヅ」と「誦(しょう)ス」の二つの動詞が点で切られた二連文になっています。

 こうした文構造では、最初のV1を連用形又は連用形+テでよみ下げて、次のV2を未然形+シムとよめば(この場合は送りに「シム」を付ければ)、文意上、V1の「出(い)ヅ」にも使役の意が添加されて、「浩然を出させて~」の意となるというのが連用中止法の基本的な考え方です。

 全体の文意は、「帝が浩然に天子の命を告げて(命じて)、浩然を寝台の下から出させて、彼の作るところの詩を声に出して読むようにさせた」の意になりそうです。したがって、この例文の正しい書き下しは「浩然に詔(みことのり)して出でて、為(つく)る所の詩を誦(しょう)せしむ」となります。



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